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映画は、フランスの貴族の屋敷を舞台にしたドラマだった。洋食器メーカーを始めとした有名ブランドがこぞって協力したというだけあり、瞬きさえしたくないほど豪華絢爛な映像だ。DVDで済ませず、映画館に来て良かった。

集中したいのに、ポップコーンを取るときに、何度か涼磨と手が触れてしまった。

毎回すかさず離したが、しばらくは画面に集中できなくなってしまう。

食べるのをやめようとも思ったが、半分以上という押し付けられたノルマが頭に残って、何度も同じ失態を繰り返した。これだから、恋愛経験がないのは、困る。

那央なら、気にしないのだろうし、もっとうまくやり過ごす方法を知っているのかもしれない。

涼磨も、甲が触れ合ったくらいで、何とも思わなかっただろう。土曜日は、自分から手を重ねてきたくらいだ。それくらい、どうということでもないのだ、きっと。

涼磨に触れられた甲を、もう片方の手のひらで、そっと撫でてみる。

涼磨は、言うなれば現代のお貴族様。そう言ったら、涼磨は笑うだろうか。

会社は大企業ではない。涼磨の曽祖父が身一つで興した会社だから、老舗といってもたかが知れている。先祖代々の家柄がどうのというのも、聞いたことがない。

高額納税者として取り沙汰されるような人でもないし、週刊誌に載るような人でもない。

それでも涼磨は、貴族制度がない現代の日本では、上流階級に属する人だ。

仮に上流階級だとしても最下層だと、涼磨なら謙遜するだろうが、それでも庶民とは違う。

大した才も学もなく、優れた容姿も愛嬌もなく、恋愛一つできないでいる千帆とは違うのだ。

金襴豪華なティーカップでお茶を楽しむ貴族が涼磨なら、千帆はティーポッットを手に待機するメイドあたりだろう。

いや、きっと貴族の視界に入ることもできない、下働きだ。
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