誓約の成約要件は機密事項です
映画では、下働きの娘が、誤って貴族の目に触れてしまい、交流を持つシーンがあった。それが、後で執事に知られて、娘はひどく叱られる。この時代では、視界に入ることさえ、あってはならないことだったらしい。

映画を観ながら千帆は、下働きの娘が、自分のことのように思えた。今の状況と重なって、恐ろしくてならない。

どうしてだか分からないが、涼磨は千帆を構いたがっている。

後で、どんな災厄が待っているのか――。

どんなことが起こるのであれ、自分が傷つくことには違いないのではないかと思う。

「食事をしていかないか?」

「いえ、もう帰ります。そんなにお腹もすいていないので」

デートのようなことばかりしているのは、困る。

二人のシートの間に残されたポップコーンを見て、涼磨は眉をひそめた。

結局、ポップコーンは食べ切れなかった。そのことを不満に思っているのだろうか。

千帆は、半分以上食べたつもりだ。

それとも、夕食を食べたくないほどポップコーンを食べたことを責められているのだろうか。

その場合、食べろと言ったのは涼磨なので、文句を言われる義理はない。

「車で送る」

「いえ、電車で帰りますから」

「もう時間も遅い。それに、ドライブは好きだと言ったじゃないか」

千帆を責めるような言い方が、不快だ。

注意したいのに、なぜか涼磨の方が縋るような目をしている。

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