誓約の成約要件は機密事項です
涼磨の車に乗り込むとき、微かに甘いウッディの香りがした。香水のラストノートだろうか。

一瞬でそれは消えて、涼磨の持ってきたポップコーンの臭いが車を満たす。

涼磨がエンジンをかける前に、千帆は続ける。

「そうじゃなくて……どうして、私なんかに構うんですか。早く結婚したいのだとしても、副社長なら他にいくらでも選べるでしょう?」

「どうしても君は、役職で呼びたいようだな」

「……すみません」

ふてくされて運転席を振り返ると、涼磨はじっと千帆を見ていた。

黒々とした瞳は射抜くようで、千帆は生唾を呑む。

けれど、それで話をうやむやにする気はない。

「……答えてください」

真剣な千帆に諦めたのか、涼磨は小さく息をついた。ハンドルに肘を預け、唇の端を指でなぞりながら車の前方に、何かを探すように見つめる。

「……条件が合うからだ」

「条件?」

「君も結婚相手の条件を言っただろう。僕は、君の条件を満たしている。僕にとっても、同じことだ」

「どんな条件ですか?」

ハンドルに肘を預けたまま、涼磨がこちらを向いた。

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