誓約の成約要件は機密事項です
「君みたいな若い子と会えるなんて、高い金払ってきたかいがあったよ。今まで会ったやつらは、ばあさんばっかりでさ」

思わず見開いてしまった瞳を隠すように、慌てて俯く。ののしりの言葉が出てこないように、コーヒーカップで口を塞いだ。

「この間なんか、5歳も上の女から誘いがあってさ。35だよ? 相談所の方に、年上はやめてくれって言ってあるんだけど、プッシュがすごいんだよな」

「……そうですか」

「30過ぎて、必死になってる女って、正直引くよね。この間会った女も、ひどくてさ」

正直なんだろう。

もしかしたら、若い千帆のことを持ち上げてくれているつもりなのかもしれない。

けれど、年齢を理由に婚活に苦戦している姉をもつ身としては、許せる言葉ではなかった。

そもそも、年は毎年みんな取るものだ。結婚するときに若くても、妻が歳をとったとき、この人はどうするつもりなのだろう。千帆だって、あと5年すれば30歳だ。

一番値段の安いブレンドコーヒーにしたのが間違いだった。苦味ばかりが舌に残る。

「出ようか」

そう言われて店を出たときには、断ることは決めていた。

幸い、この場で本人に言う必要はない。後で、結婚相談所に連絡を入れておけばいいだけだ。

どうやって帰りを切り出そうかと悩みながら歩いていると、ふいに手を握られた。
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