誓約の成約要件は機密事項です

追加要件の発生

仕事納めまで、あと一週間というところで忘年会が開かれた。経理や総務など、事務系の部署合同の大規模なもので、涼磨も出席している。

「最近休みの日は、何してるんだ?」

だいぶ酒の入った経理部長は、それでも部下に気を遣うタイプで、静かに飲んでいた千帆にも声をかけてきた。

「千帆ちゃんは、婚活してるんですよ。部長の伝手で、いい人つれてきてくださーい」

こちらもいい具合に酔いがまわった那央が、代わりに答える。

「おう、婚活か。いいな。いいやついたら、紹介するよ」

「ありがとうございます」

心を込めて頭を下げると、別の部署の女性が笑う。

「えー、私は無理。ちゃんと好きな人と結婚したい」

「昔は、見合いが多かったんだけどなぁ」

「部長も、お見合いですか?」

「うちは恋愛結婚だよ」

豪快に笑う部長につられて千帆も笑顔を作ったが、引きつっていないことを願うばかりだ。

あれから、結婚相談所に紹介されて、また新しく一人の男性と会った。高林というその人は、32歳と歳は上だが、初めてデートらしいデートができた。

勤め先は、大手のメーカー。地方から出てきた三男で、東京でずっと暮らすつもりだという。

落ち着いた人で、感じが良かった。

向こうからは、また会いたいと言われている。千帆としても、断る理由がない。

その人と、結婚するんだろうか。

その人を、いつか好きになったりするんだろうか。

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