誓約の成約要件は機密事項です
「……副社長は、どうして私なんかに構うんですか」

「君が条件に合うからだ」

「私程度のスペックなんて、他にいくらでもいるはずです」

「君しかいない」

「……」

そういう言い方が嫌なのだ。余計な期待をしてしまう。最初に、条件に合うだけだと釘を刺されているのに、夢を見てしまうのだ。

それを振り払うように千帆が首を振り続ける間、涼磨はなだめるように頭を撫でていた。

優しいその仕草も堪らない。

「なぜ、僕ではいけないんだ。君が最初に提示した条件は、満たしているはずだ」

千帆の口は動かない。

寒さに唇が震える。心が冷えて冷えて……凍らせてしまわないと、もうもちそうにない。

「他に条件があるんだな? 言いづらいだろうが、はっきり言ってくれ。そうでないと、諦めがつかない」

「……」

諦め、だなんて。

どうやったら諦められるのか、自分で分からないことを教えられるはずがない。

二人は、じっと見つめ合った。

「……もしかして」

「……」

「私のこと、好きなんですか」

「……」

限界だった。

言ってしまった途端、後悔した。

自分のことを好きかだなんて、そう願っているのが見え透いている。

呆れた涼磨の手が、千帆から離れる。呆れてしまったんだと思った。

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