この痛みが、もう少し続きますように。
それは頭で言葉をひとつひとつ探っているような口調。
私を傷つけないように、あるであの日のことが夢だったかのように、私を簡単に尽き離そうとする。
「そうじゃなくて。澤田健一として、私と身体を重ねたことを、後悔してますか?」
先生には、婚約者がいた。
先生と同い年で家柄もよく、先生の言葉を借りるなら非の打ち所がないほどできた人、だったらしい。
先生に婚約者がいたことは、私以外誰も知らない。
あれは、たしか夏休み前の6月だった。
私が今日のようにノートを届けに化学室を訪れ、先生はその時いなかった。
そして私が机にあった手帳を発見してしまったことが、はじまり。