仮面のシンデレラ《外伝》
物珍しげに俺を見つめる少年の純粋な視線が痛い。
今さらこの“悪魔からの提案”を聞かなかったことにすることなどできない。
確信犯の笑みを浮かべたウサギは、俺に向かって口を開いた。
「ジョーカーだと言うことは秘密にしたままでいいよ。君は、僕の“友人”としてオズ君によく言い聞かせておくから。」
「…“友人”になったつもりもないんだが。」
「あはは、つめたいなー。」
わずかにまつげを伏せた彼は、ぼそり、と呟く。
「…もし、隠匿の罪で君の立場が危うくなったら、迷わず僕を殺していいからさ。」
「!」
…出た。
こういうところが、気にくわない。
いつも、この世の次元の一歩先を歩いているような。
どこか達観していて、この世界で生きることを端から諦めているような。
この男は、そんな言葉をさらりと口にするから。
…底が知れない“覚悟”が見え隠れする。
俺は、彼に頷く他になかった。
ウサギは全て計画通りといったような満足げな顔で爽やかに笑った。
「いつか全てに決着がついたらオズ君に全部話して聞かせるよ。この国には、人間の味方をしてくれた異端のジョーカーがいるってね。」
「やめろ、恥ずかしい。」
“いつか全てに決着がついたら”
そんな日が来るなんて今は想像できないが、きっとこの男はやるだろう。
…なぜか、そんな変な信頼を寄せてしまったせいで、俺は“ガキの保護者(仮)”になる羽目になったのだ。
*終*