仮面のシンデレラ《外伝》
僕を見上げる彼女に、僕は微笑んで続けた。
「確かに人間は自分勝手だし、悪影響を与える描写や悲しい展開を万人受けを狙って変更することもあるかもしれないけど…。人間がいなかったら、物語が作られることもないだろ?」
「!」
「上手く伝わるか分からないけど…。人は、そんなに悪いもんじゃないって、僕は思うよ。」
彼女は、僕の言葉をまっすぐ受け止めているような気がした。
どうしてそこまで“本”と“人間”について葛藤しているのか分からなかったが、彼女は彼女なりに色々考えることがあるのだろうと、僕は勝手に納得していた。
「…湊人くんはすごいね。」
「?何が?」
「ううん。こっちの話。」
彼女は穏やかな瞳をしていた。
僕は、不思議な雰囲気を纏う彼女から、何故だか目が離せなかった。
「!そうだ、エラ。」
「?」
僕は彼女の隣を歩きながらふと思い出して口を開いた。
「この前、エラが読みたいって言ってた小説を持って来てたんだ。」
「えっ、本当?」
「うん。ちょっと分厚くて重いから、別れる時に渡すね。」
「うん!ありがとう…!」
彼女は、すっかりいつも通りの彼女に戻って、僕に笑いかけた。
彼女の持つ違和感の正体に、僕は気が付かないフリをしていたのかもしれない。
そんな僕が、彼女が何か隠していることを確信したのは、この帰り道でのことだった。