仮面のシンデレラ《外伝》


(あんなに楽しそうに…。単純に、絵本が好きなのかな?将来は作家になりたいとか?)


彼女は文学部なのかもしれない。

そんなことを思ったのがキッカケだった。


…そんなある日。

僕は例のごとくレポートで使う論文を求めて本棚の迷路を歩いていた。

参考に出来そうなものを背表紙だけで探していたその時。

僕の目にいつもと違う光景が映った。


(あれ…?あの子……)


それは、あの黒髪の彼女だった。

高いところにある本を見つめ、考え込んでいるようだ。

僕は、まるで吸い寄せられるように、無意識に彼女の元へ歩み寄っていた。


「…これ?」


「!」


彼女が手を伸ばしていた本をすっ、と取る。

ぴくり、と肩を震わせた彼女は「…あ、はい…!」と口を開く。


「…ん。どうぞ。」


高い棚の本を彼女に差し出した時。

初めて、彼女の瞳に僕が映った。

ぱっちりとした二重に、長いまつ毛。

メイクはあまりしていないようだが、それでも“美人”だと思った。


「ありがとうございます…!」


小さく頭を下げた彼女に、僕は微笑み返す。

そして、ファーストコンタクトに成功し、どこか浮かれていた僕は、つい口を滑らせた。


「珍しいですね。カタイ本のコーナーにいるなんて…」


「え?」

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