仮面のシンデレラ《外伝》


コツコツコツ…


彼女の靴音が遠ざかっていく。

僕は、1日のデートの終わりに小さく息を吐いた。


(あ…)


その時、ふと思い出す。

彼女に貸すはずだった本が、まだ僕の鞄の中に居座っていた。

大学で渡しても良かったが、特に待ち合わせをしているわけでもない。

彼女は、小説を読むのを楽しみにしていた。


(…今追いかければ、渡せるかもしれない。)


夜道に送り出してしまった心配もあり、僕は急いで車のドアを開けた。


タッタッタッ…!


彼女の入って行った路地へ向かう。

そこは街灯など無い真っ暗な道で、まるでこの世ではないようだった。

レンガ造りの迷路に、違和感を覚える。


(…どこに続いているんだ?この先に家があるのか…?)


コツ…コツ…コツ…


彼女の姿は見えないが、足音だけは確かに聞こえる。

追いかけているはずなのに、一向に彼女に届く気配がない。

動揺と戸惑いが込み上げた。

そして、僕が突き当たりの角を曲がった

その時だった。
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