仮面のシンデレラ《外伝》


「…!」


目の前に見えたのは高い壁。

蔦の絡まるレンガの壁が、月明かりに照らされている。


(行き止まり…?ここまでは、確かに一本道だったはずなのに。)


一瞬、夢でも見ているかのような感覚に陥った。

自分の目で見えている光景が信じられない。

だが、僕が追いかけていた彼女の背中はそこになく、人の気配もしなかった。


(どうなってるんだ…?)


暗闇の中、眉をひそめた

次の瞬間だった。


ブブブブ…


(!)


ポケットの中で、スマホが鳴った。

バイブの振動を手に取ると、画面に映し出されたのはメールの受信届け。


『無事に家に着きました。
今日はありがとう。本当に楽しかった。
初めてのデートが湊人くんでよかったな。』


差し出し人は、エラだった。


(家に着いた…?)


この短時間の間に誘拐された可能性を考えていた僕は、ほっ、と胸をなでおろす。

最後の1文で、動揺や疑念が一気に晴れる僕も僕だ。

彼女が無事ならそれでいい。


(…僕が気が付かないうちに、横道にそれたのかもしれないな。)


僕は、都合よくそう自分に言い聞かせ、夢のような出来事を深く理解しようとしなかった。
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