仮面のシンデレラ《外伝》
無意識に彼女の名を口にした。
僕の動揺した声に、エラがはっ!とする。
(い、今のは…?)
…と、その時だった。
すっ
エラが、地面に落ちた本を拾う。
そして、僕にぐいっ!と押し付けた。
彼女の唇が微かに動く。
「…ごめんなさい…」
「!」
本を受け取ると同時に僕に背を向けるエラ。
そのまま駆け出そうとする彼女の手を掴む。
「待って!」
この手は離してはいけないと思った。
このまま、彼女が消えてしまうような気がした。
僕は思わず引き止め、彼女の顔を覗きこむ。
(…!)
彼女は、見たこともないほど動揺していた。
まるで、この世の終わりだと言わんばかりの蒼白な顔色に息を呑む。
「…ごめん、湊人くん。…ごめんなさい…!」
エラの腕が、僕の手からするりと抜けた。
彼女を呼び止めることは出来なかった。
声も出せぬまま、彼女は僕を残して、あの路地へと消えていったのだ。
…そして。
その日からエラが僕の前に現れることはなくなった。