仮面のシンデレラ《外伝》
恥ずかしそうに笑みを浮かべた彼女は、僕が見てきた中で一番可愛かった。
…僕たちは、運命に抗うようにお互いを求め合った。
12時を回り魔法が解け、全ての偽りが消え去ると、そこには“気持ち”しか残らなかったのだ。
口づけを交わしている間だけは、自らが“禁忌”を侵していることを忘れられた。
大事に、大事に。
記憶に全てを刻み込むように。
僕らを待つ未来など、何一つ頭から消して。
…ただひたすらに、お互いの熱だけを感じていた。
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…ピチチチ…
(…ん…)
穏やかな朝の光。
ゆっくりとまぶたを開ける。
時刻は午前6時。
まだ、朝日が昇ってすぐらしい。
少し冷たい空気が肌を撫でる。
「…すー……、…すー……」
一定の間隔で聞こえる寝息に、そっ、と視線を向けると、僕の腕の中で眠るエラが見えた。
温かい柔らかな感触が、昨日の記憶を呼び起こす。
…サラ…ッ…
優しく髪を撫でると、彼女は無意識に僕へすり寄った。
まどろみの中で甘えてくる彼女に、愛しさが募る。
穏やかな寝顔をしばらく見つめ、僕は、小さく息を吐いた。
…この幸せは、いつまでも続かない。
きっと、こんな朝は二度と来ない。
それが分かっているのにも関わらず、僕は昨日エラを奪った。
それが“罪”であったとしても、避けることなど出来なかった。
“…帰りたく、ない…”
(…あそこまで言われたら、無理だろ…)