仮面のシンデレラ《外伝》

恥ずかしそうに笑みを浮かべた彼女は、僕が見てきた中で一番可愛かった。

…僕たちは、運命に抗うようにお互いを求め合った。

12時を回り魔法が解け、全ての偽りが消え去ると、そこには“気持ち”しか残らなかったのだ。

口づけを交わしている間だけは、自らが“禁忌”を侵していることを忘れられた。

大事に、大事に。

記憶に全てを刻み込むように。

僕らを待つ未来など、何一つ頭から消して。

…ただひたすらに、お互いの熱だけを感じていた。


**


…ピチチチ…


(…ん…)


穏やかな朝の光。

ゆっくりとまぶたを開ける。

時刻は午前6時。

まだ、朝日が昇ってすぐらしい。

少し冷たい空気が肌を撫でる。


「…すー……、…すー……」


一定の間隔で聞こえる寝息に、そっ、と視線を向けると、僕の腕の中で眠るエラが見えた。

温かい柔らかな感触が、昨日の記憶を呼び起こす。


…サラ…ッ…


優しく髪を撫でると、彼女は無意識に僕へすり寄った。

まどろみの中で甘えてくる彼女に、愛しさが募る。

穏やかな寝顔をしばらく見つめ、僕は、小さく息を吐いた。


…この幸せは、いつまでも続かない。

きっと、こんな朝は二度と来ない。


それが分かっているのにも関わらず、僕は昨日エラを奪った。

それが“罪”であったとしても、避けることなど出来なかった。


“…帰りたく、ない…”


(…あそこまで言われたら、無理だろ…)


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