仮面のシンデレラ《外伝》
ドサッ!!
「っ!」
体が、柔らかな地面に投げ出された。
はっ!と目を開けると、そこに映ったのは真っ青な空。
異形な木々や、見たこともない花が咲き誇っている。
何もかもが、知らない世界だった。
遠くに見える町も、空気さえも違う。
(…ここが、エラの育った“不思議の国”…?)
───カサッ
景色を眺めていたその時、背後から誰かの足音が聞こえた。
思わず、ぴくん!と震えて後ろを振り返る。
…と、そこにいたのは、空色の瞳のエラではなかった。
艶のある女の声が耳に届く。
「…まさか、“人間”…?」
漆黒のドレスに、真っ赤な口紅。
誰もが見惚れるような色気をまとった女性が、僕を見下ろしている。
その時、かつてのエラの声が頭をよぎった。
“私は、人間と深く関わることは禁じられている。”
ここは、人間が立ち入ることを禁じられた国。
ぞくり!と体が震えた。
思わず警戒して身構えた僕に、女性はくすり、と微笑んだ。
「…そんなに怖がらないで。私は国家公務員でも、警備隊のジョーカーでもないわ。」
「…!」
すっ、と目の前にしゃがんだ彼女から、ふわりと香水の香りがする。
薔薇色の瞳が僕をとらえた。
「…私は“トレメイン”。…ぼく、名前は?」