仮面のシンデレラ《外伝》


「ありがとうございます。…えーと…」


「僕は、橘 湊人です。」


彼女は、ふわりと微笑んで僕を見つめた。

そして、形のいい唇をゆっくりと開く。


「私は…、えーと……」


自分の名前で悩む彼女。

そこがまた僕のツボにハマり、再び吹き出す。


「偽名でも教えてくれるのかな?」


「!!違います、違います!」


僕のからかいに焦る彼女に微笑むと、彼女は僕をまっすぐ見つめて答えた。


「私は、“エラ”です!」


「“エラ”?もしかして、ハーフなの?」


「あっ、違います…!…みんなからそう呼ばれているので、橘さんもそう呼んでください。」


“エラ”というのは、彼女のあだ名らしい。

童話好きの彼女に、友達が命名したのだろうか。

僕は、彼女とともに書庫を歩きながら口を開いた。


「“エラ”って、素敵なあだ名だね。シンデレラと同じ名前なんだ?」


「!…知ってるんですか?シンデレラ!」


急にテンションが上がった様子の彼女にきょとん、としながらも、僕は笑って軽く答えた。


「うん。シンデレラの本名が実は“エラ”だってことは知ってたよ。…僕、童話の中だったらシンデレラが1番好きだから。」


「えっ!!!」


バサバサバサッ!!


「「!!」」


彼女が、持っていた鞄を勢いよく手から落とした。

ノートやポーチが床に散乱する。


「!ご、ごめんなさい…!」


「いいですよ。…変なこと言いました?僕。」


「い、いえ!とっても素敵なことを言いました!!私も好きです、シンデレラ…!」


妙に嬉しそうな彼女が、僕をまっすぐ見上げてそう言うものだから。

僕は何だか変に恥ずかしい気持ちになった。

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