仮面のシンデレラ《外伝》
すると、彼はこくりと頷いて呼吸を落ち着かせながら答えた。
「…っ、朝ね…、ジョーカーがいきなり家に押し寄せて、エラを連れていったの。…僕、どうしていいかわからなくて…っ…」
涙を袖で拭いながら彼は続ける。
「エラがよく“ミナトくん”のことを話してたから…どうにかしてくれるかもしれないって思って…!でも、電話が繋がっても、うまく言葉が出てこなくて…」
(…ということは、僕が図書館で電話に出た時、すでにエラはここにいなかったってことか…?)
すべてに気がついた僕は、すっ、としゃがんだ。
そして、少年と目線を合わせ、静かに言った。
「…大丈夫、落ち着いて。…エラはどこに連れて行かれたか知ってる?」
こくり、と頷いた彼は、すっ、と東を指差した。
その先に見えるのは、荘厳な城。
国の中心部にあるらしい。
(…まさか、牢に……)
嫌な予感が胸にこみ上げる。
僕は、ぐっ!と手に力を込めて呟いた。
「行こう。僕と一緒に。」
「…えっ…!」
「君のご主人様を助け出すんだ。どこまでできるのか分からないけど。」
ローズピンクの瞳が見開かれた。
ぽろり、と、最後の涙が頬を伝う。
ぎゅっ、と、少年の手を取った僕は、城を見据えて言葉を続けた。
「このまま待っているなんて出来ない。…君もそうだろ?」
戸惑っていた少年も、僕の言葉に覚悟を決めたのか、ぶん!と大きく頷いた。
ぽん、と優しく少年の頭を撫でた僕は、まっすぐ彼を見つめて口を開く。
「さぁ、城まで案内を頼むよ。…猫くん、君の名前は?」
しゅるり、と尻尾が揺れて、僕の腕に絡んだ。
「…僕はチェシャ猫。“チェシャ”って呼んで。」