仮面のシンデレラ《外伝》
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コツ…コツ…コツ…
2人の足音が、暗い廊下に響く。
石造りの壁に音が反響していく。
「…すごいな、チェシャ。影も映らない。」
「えへへ。でしょっ?姿を隠しただけだから、壁はすり抜けられないけどね。」
すっかり色を失った自分の手を見つめて、僕は“魔法”というものに改めて感心した。
透明人間になるなんて、20年生きてきて初めての経験だ。
…それが当たり前なのだが。
「すんなり城に入れたね。…地下っぽいとこに潜り込めたはいいけど、これからどうするの?」
僕を見上げてそう尋ねるチェシャに、静かに答えた。
「城の見取り図がないから勘を頼りに歩くしかないけど…、きっとこの先に牢があるはずだよ。」
「なんで分かるの?」
「ここ、王が足を踏み入れるにしては装飾も空気も悪いだろ?…それに、建物の構造がやけに外界から離れていっている。廊下も入り組んだ作りだし…逃走防止策としか思えない。」
僕の言葉に、ふぅん、と、相槌を打ったチェシャは「ミナトって頭いいんだね」と感心したように言った。
僕は苦笑して答える。
「そんなことないよ。…不思議の国まで恋人を追いかけてきて、見つかったら死ぬかもしれない危険な橋を渡っているんだからね。」
「ふふ。エラのこととなったらバカなんだ?」
「…何も言い返せないな。」