仮面のシンデレラ《外伝》

急に焦りがこみ上げた。

トン!と軽く胸を押される。


「行って、湊人くん。あなたまで道連れにできない。」


「!」


彼女の強い視線が僕を貫いた。

しかし、大人しく言うことを聞くなんてできない。

彼女を救えないのでは、牢に忍び込んだ意味がなくなる。


「エラを1人で残してなんて行けない。…道連れなんて思わない。僕はここから離れないよ。」


エラの瞳が揺れ動いた。

自分の中の感情と葛藤するような彼女は、覚悟を決めたように言い切る。


「だめ。…あなたには、チェシャを頼むわ。」


「!」


「…あの子を守って。…私の代わりに、ちゃんと家に連れて帰って。」


そう言えば、僕が簡単に断れないと彼女は分かっていた。

ずるい頼み方だ。

家族と同然のあの猫の少年を僕らに巻き込んで見殺しにするなと、遠回しに彼女は言った。

しかし、彼女を残していくことなど、地獄に等しい。


「エラ。前に言っただろ?僕はだめなんだ。君がいないと……!」


その時。

ふわり、と彼女が僕の頰を包んだ。


ちゅっ…!


(!)


ぽうっ!!


空色の魔力に包まれる体。

身に覚えのある感覚。

薔薇色だった僕の瞳にエラの魔力が侵食し、やがて“桜色”へと変わっていく。


パァァッ…!


“契約のキス”によって、淡い光が2人を包んだ。

エラは、にこりと笑って僕を見上げる。


「…寂しがりやのウサギさん。…こうすれば、あなたは1人じゃないわ。」


「!」


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