仮面のシンデレラ《外伝》
…ぽた。
チェシャの瞳から、一粒の涙がこぼれ落ちた。
後から後から溢れる涙に、ぎょっ、とする。
「チェシャ…?どうした?」
思わず駆け寄り、彼の目の前にしゃがみこむ。
すると、僕の顔を見たチェシャはさらに涙を浮かべ、震える声でぽつり、と言った。
「…エラが………本の中に還った…」
「………!」
その意味を理解するのに、数秒時間がかかった。
蒼白なチェシャの顔に、ぼろぼろと涙がつたう。
“本の中に還った”
それはつまり、寿命以外で命を落とし、この国に居られる実体をなくしたということだ。
本の世界に閉じ込められたら、一生会うことなど出来ない。
「…なにかの間違いだろ?そんな、昨日の今日で処刑なんて…」
僕の言葉に、ぶんぶんと首を振るチェシャ。
「…嘘じゃ、ないよ……。…僕、“不思議の森”でエラに会ったんだもん…」
(“不思議の森”?)
眉を寄せる僕に、チェシャは続けた。
「郊外にある森だよ。…そこは森全体に魔法がかけられていて、幻をみれる場所なんだ。…そこで会えるのは、“死人”だけ。」