仮面のシンデレラ《外伝》
どくん…!
心臓が音を立てた。
“死人”だけしか現れない不思議の森の幻。
そこで会えたということは、“エラがこの世にいないことの証明”だった。
チェシャが、がくん!と膝から崩れ落ちる。
(…信じ、られない…)
無意識にふらり、と足が動く。
「…ミナト…?どこへ…?」
誰の声も届かない場所へ、僕の心が飛んでいってしまったような気がした。
頭の中は、記憶の中の“エラ”だけ。
コツ…
玄関を出て行く僕の背中からチェシャの焦ったような声が聞こえる。
「まさか、不思議の森に行くつもり…?!危ないよ…!あそこは、“侵入者を拒む”!命を落としてもおかしくないんだ!」
ぴたり。
僕は、静かに立ち止まった。
そして振り返ることなくぼそり、と答える。
「…いい。それでも…。」
「!」
タッ!
駆け出した僕は、迷いなどなかった。
チェシャが引き止める声が聞こえたが、ぼんやりとした中に響くだけ。
僕は、何かを考える余裕もなく、ただひたすら足を動かしたのだった。