仮面のシンデレラ《外伝》

無意識に駆け出していた。

遠くに見えたのは、たしかに彼女の銀髪だった。

見間違えるはずなどない。

木々の合間を縫うように走る僕は、必死で彼女の名を呼んだ。


「エラ!エラ!!」


彼女は振り向かない。

煙のように姿を消しては、視界の隅に現れる。


追いつかない。届かない。


「……エラ!!」


ばっ!と、彼女へ手を伸ばした。

もう一度だけ、顔を見たくて。

ここにいるのは“偽物”。


(…それでもいい、それでもいいから…!)


パァン!


「!」


僕の体から放たれる魔力。

薔薇色の光が辺りを包んだ。

彼女の姿が一瞬で消え失せる。

その背中すらも見えない。


「…エラ……?」


ぽつり、と響く声。

“独りぼっちの森”に、僕だけがいた。


ザァァァ…


雨が降り出した。

だんだんと冷える空気。

伸ばした手が、行き場をなくしてさまよった。

もう、そこに誰もいない。


「……はっ…。」


ドサ…!


力が抜けて、地面に倒れこむ。

自嘲気味に漏れた笑みは、歪んでいた。

…僕の魔力は、エラの影を目の前から消す。

森にかかった魔法も僕にはかからない。

僕は、エラの幻に会うことすら許されないのだ。

彼女に触れることも、言葉を交わすことも、もう出来ない。

…そして、侵入者を拒むこの森で、罠にかかって死ぬこともできない。

彼女の後を追うことも僕には禁じられたのだ。


…全てが、真っ白になった。

雨の音だけが大きく聞こえて、自分が息をしている音は聞こえなかった。

心は、いつのまにかその動きを止めていた。
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