仮面のシンデレラ《外伝》
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「…あら。大人しくここに来たのね。呼んでも従わないのかと思っていたわ。」
暗闇に包まれた城。
思考を鈍らせる甘い香り。
魔力が香水と混じり、肌に溶け込む。
薔薇色の瞳の魔女は、余裕の笑みで僕を見つめた。
ぐっ!
力加減もせず、腕を掴む。
ソファに腰掛けていた魔女をいとも簡単に押し倒すと、トレメインは勝ち誇ったように笑った。
「…覚悟はできたのかしら?…私には触れないんじゃなかったの?」
しぃん、と、部屋が静まり返る。
カチ、コチ、と時計の針が時を刻む音だけが響いた。
エラとの記憶が、奥底へと沈んでいく。
二度と開けるつもりのない感情の箱の中に、愛しい彼女の笑顔を閉じ込めた。
僕の瞳は、何も映していなかった。
「…もう、全部どうでもいい。」
…その後のことは、自分でもよく覚えていない。
凍りついた心の中に、偽りの愛だけが居座っていた。
蜘蛛の巣に絡め取られて身動きが取れなくなったような
抵抗する気さえ失せたような
そんな無力感だけを感じていた。