仮面のシンデレラ《外伝》
“湊人くんへ。
初めて手紙を書くから、緊張するな。書きたいことはたくさんあるはずなんだけど、文字にするのは難しいです。
湊人くんが私を追って来てくれたこと、本当に嬉しかった。あまり話す時間はなかったけど、湊人くんの顔を見れてよかった。
私は、湊人くんのせいで捕まったとか、そういうことは一つも考えてないの。貴方と会えたことが、私の人生で一番幸せなことだから。そのことが私の後悔になるなんてことはありえない。優しい湊人くんは、きっと自分を責めるだろうけど、そんなことはしなくていいの。
…実はね、牢で湊人くんと別れた後、たくさん泣いちゃった。
自分が死ぬことが怖くて泣いたんじゃないよ。いっぱい泣けば、同情したジョーカーがこの手紙を湊人くんに渡してくれるかもしれないって思ったから。
ちょっとずるいよね。
もしかしたら、今読んでいるのは湊人くんではなくて、それ以前に読まれてないのかもしれないけど、私の願いが届くことを祈ってここに文字を綴ります。
私と同じ時間を歩んでくれて、ありがとう。私の手帳が湊人くんとの予定で埋まっていくことが、本当に嬉しかった。思い出はどれも大切で、私にとって、消えることのない宝物です。
…でも、湊人くんは早く私のことを忘れてください。魔力の契約を結んで、こんな手紙まで残して、何言ってるんだって思うよね。私もそう思う。
だけど、湊人くんは、前を向いて。私の後を追おうなんて考えないで。自分のことを犠牲にして辛い目にはあうことだけはしないでほしい。
湊人くんは誰よりも優しい人だから。もし、まだ同じ場所で足踏みをするというのなら、記憶のカケラの中に私を残すくらいでいい。それだけで、私は充分。
ゆっくりでいい。焦らなくていいから、私を思い出さない日を増やしてください。
…嘘。やっぱり、ちょっとは覚えてて。湊人くんが、私を必要とするまででいいから。
最後に一つ、貴方に伝えます。
愛してたよ。”