仮面のシンデレラ《外伝》

何も、言葉が出なかった。

心の底に押し込めて、鍵をしたはずの“記憶の箱”から感情が溢れ出す。

冷え切った心に、血が通った。

桜色の瞳からこぼれた熱い雫が、ぼろぼろと頬を伝っていく。

僕は、初めて泣いた。

独りぼっちの道端で、崩れ落ちた。

白い便箋が、涙で滲んだ。

エラの遺した言葉たちは、温かくて、優しくて。

僕がこんな言葉をもらっていいのか。

君は、この世にいない。

それは少なからず、僕のせいなのに。

君は僕を責めない。


「…“忘れる”なんて、出来る、わけ……」


ぽつり、と口から出た言葉は、途中で途切れた。

掠れる声は、エラには届かない。

彼女の温もりと、交わした言葉が蘇る。


“…じゃあ、来世はウサギにでもなろうかな。”


“…ふふ。湊人くんがウサギかぁ。”


“…似合わない?”


“…ううん。きっと私は、湊人くんを1人にしないように、ずっと側にいるんだろうなあって思って。”


…ぽぅっ…!


空色の魔力が熱を持った気がした。

その時、手紙とともに同封されていた“写真”に気づく。


(…!)


それを見た瞬間。

僕は小さく呼吸をした。

…心の中にかかった靄が消えるとともに、自分の中で何かが吹っ切れた気がした。

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