仮面のシンデレラ《外伝》


…コト。


人間界の部屋に飾った写真。

そこに映る彼女は、穏やかな顔で僕を見ていた。


…エラ。

君がいなくなってから、君のことを考えない日なんてなかった。

どこにいても君の面影を探し、最後の温もりを思い出した。


…そして僕の中にあるのは、トレメインへの復讐心だけだった。

だが、オズ君が僕を追って不思議の国に迷い込み、愛を求めて僕と同じ運命を辿ってしまったことを知ったときから、僕は変わった。

彼を、救いたいと思った。

僕が叶えられなかった未来を、アリスとともに歩んで欲しいと思った。

僕が介入してしまったことで狂った彼らの運命を、正しいレールの上に戻すことこそが、僕に課せられた使命だと思った。


エラ。君は、そんな僕を恨むだろうか。


“彼女と撮った最初で最後の写真を、まともに見ることが出来るようになった”


それを自覚した瞬間、僕は自分が許せなかった。

君が死んですぐは、写真に触れることさえ出来なかったのに。

生きている人間にのみ起こる悲しみの補正が、罪悪感となって僕を締め付けた。

僕が君の身代わりになって息をしていることこそが僕の罪で、僕への罰であったはずだ。


(エラは、いつも笑って僕の隣にいてくれた。)


エラは、牢獄でも涙を見せなかった。

彼女は笑顔で飾ったのだ。

僕の中に残る“最期”を。


(…決めたよ、エラ。僕は必ず、この策を成し遂げてみせる。)


何に変えても、少年たちに同じ運命は辿らせない。

僕は、そう彼女に誓った。

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