報復の愛を君に。
そんな日々が何年も続いて、ようやく両親の虐待行為が明るみとなった。

小学校の担任からの通告によるものだった。

家に入った大人たちが見たものは、狭い押し入れの中に何日間も閉じ込められて衰弱した少女の姿だった。

保護された花岡瀬奈という女の子はもう、自分がどんな存在なのかなんてわからなくなっていたという。

「“もう大丈夫だからね”って、ふかふかの毛布をかけられました。
だけど、保護されたことをありがたくは思えなかった。
なんでお父さんお母さんと離れなきゃいけないのって泣いて、職員さんを困らせて。
あんな酷い親でも、子どもにとっては親なんです。

施設に行ってからもずっと気を張ってて、安全な場所になんだと思えるまでには相当な時間がかかりました。

そこからは必死に勉強して、高校に行って、区役所で働くことができました。

ただ、勉強の仕方はわかっても、人との接し方とかよくわからないままで。

まだ怖いんです。
私が機嫌を損ねさせてしまったせいで、目の前の人の笑顔が、急に怒りに支配されるのが。
そしたら私はまた、あの頃の自分に戻ってしまう…。

そう考えるとどうしても人を避けてしまうんです。
一定の距離を置いて、安全が確保されていないと、人と関われないんです」

鼻の奥が痺れて痛い。
正直、もう聞きたくない。

こんなことって、あっていいのかよ…。
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