Heart
「…これ以上……、皆さんにご迷惑…おかけするわけには…いかない…」
自分に言い聞かせて、ベットから起き上がる原動力にする。
正直、私の心の声を聞くと
出て行くという決心の裏腹には、少しの抵抗があったことは否めない。
それは恩人に何も返せずに、金輪際会えなくなるということにだろうか。
その心の奥の抵抗の理由はいまいち私自身にもよく分からない。
でも
(あの時の、龍太さんの顔…)
さっきの
仕事か何かから戻って来て、私の胸に聴診器をあてる龍太さんの顔…
(……なんだか疲れた顔してた…)
彼に、あんな表情をさせたのは自分だろうか
そう思ったら、心が締め付けられる。
それに、さっき病室の前にいた男性の表情…
明らかに不快感を露にしていた。
当然だ。私がここにいていいわけないんだ。
点滴を外し、龍太さんたちを探すために足を踏み出した。
せめてもう一度お礼とお詫びをしたい。
ゆっくりと歩き病室のドアを開ける
誰かいるかも…
という淡い期待は裏切られた。
誰かいるかと想像していたので、龍太さんを探すのに手間取らないと容易に考えていた自分を恨む。
「……はぁ…はぁ…はぁ」
なんだか酸素の少ないところにいるような疲労感に襲われ、さらに肺の違和感は時間が経つにつれ無視できないものになった。
でも…
(こんな序盤でへばってる場合じゃない…)
宛はないが、廊下の手すりを頼りに足を動かした。