今夜、お別れします。
「萌奈、田丸さんから2番外線」
遥の言葉に受話器を持つ手が震えた。
あの日別れてから田丸さんとは会っていないし、連絡も取っていない。
スマホにいくつから入っていた履歴を放置していた。
会社にかけて来たのは、私が連絡を絶ったことに対して怒っているからだろう。
勝手に巻き込んで、勝手に無視して、田丸さんが怒っても仕方ないことだ。
「もしもし」
『羽山さん?俺、田丸だけど』
「……はい。あの、その節は…….」
なんて言えばいいのか分からない。
『流石にここまで避けられると面白くないから、会社にかけたけど、この電話で文句を言うつもりはないよ。でも、ちゃんとあって話がしたいんだけど?』
感心するくらい冷静で大人な対応だ。
そんな彼の提案を拒否することは流石にできなかった。
今夜会う約束をして受話器を置いた時は、大きなため息が溢れた。
ふと視線を感じて顔を上げると、視線の先にいたのは桐谷で。
感情の読めない表情で私を見ていた。
もしかして、今の電話が誰からのものか彼は気づいたのだろうか?