今夜、お別れします。
カフェはガラス張りで、外から中の様子がよく見えた。
窓際の席に座っている田丸さんを見つけて、また溜息が溢れた。
彼には怒る権利がある。たとえ、あの時強引にキスをしてきたことを差し引いても。
その怒りは甘んじて受けようと思った。
カフェの自動ドアが開いて、店内に足を踏み入れるとコーヒーの香りと、シナモンシュガーの甘ったるい匂いが同時に漂ってきた。
店の外から見えていた田丸さんの場所へ視線を向けると、田丸さんもこちらを見ていて軽く手を挙げて呼ばれた。
彼の待つ方へ足を進める。
刹那、後ろから肩を掴まれて、勢いよく引かれた。
「きゃ……っ、」
身体のバランスが崩れて、引かれた方向へ体が傾ぐ。
そのまま後ろへ倒れると思った直後、トスン、と広く柔らかなものに受け止められた。
頭の上で荒く乱れた息遣いが聞こえる。
見上げれば、そこにあるのは額から汗を流す余裕のない桐谷の顔だった。
「……っ、田丸さんどこだ?」
「え、き、桐谷?」
「あぁ、いるじゃん」
田丸さんを見つけると桐谷は私の肩を抱いたまま、田丸さんのいる席に向かって歩きだした。
「ちょ、桐谷。待って、どうしてあなたが……」
「萌奈、うるさいよ。今息上がって喋りづらい」
そう言われてしまえば黙るしかなく、あっという間に桐谷と私は田丸さんの前まで来た。