フラレ日記
prolog
俺等が良く知っている上品な色の桜は、気が付けば、緑の葉っぱも一緒に揺らしていた。そんな二つの色が入れ混じった桜並木を二人で歩き、今日こそはと決心して口を開く。
「あの、先輩」
俺の先を歩く彼女はゆっくりと振り返り、優しく微笑みながら首を傾げる。
返答を待つ彼女と俺の間をそよ風が通り過ぎ、残り少ない桜の花弁を散らす。役目を終えた花弁は、寂しそうに揺られながら、静かに地面へ吸い込まれていった。
「良ければ、俺と付き合ってくれませんか」
震える声を絞り出し、ようやく告げた想い。緊張で高鳴る鼓動は、彼女に聞こえてしまうのではないかと思うぐらい大きい。
突然の告白に驚いた顔をし頬を赤らめた彼女だったが、直ぐに困った様な顔に変わった。
嗚呼、これはきっとフラれるんだな。そう察した瞬間、彼女は口を開く。
「ごめん、気持ちだけ受け取っておくね。私好きな人がいるんだ」
こうも簡単に終わってしまった俺の初恋。
彼女は、申し訳無さそうに笑う。俺はそんな彼女に気付かれないように息を吐き、いつも通りを振る舞おうと無理矢理笑顔を貼り付けた。
「いえ、気にしないで下さい。玉砕覚悟でしたから」
普段通りを振る舞えているのか不安になりつつも、俺は彼女に話題を振る。
「先輩の好きな人って、もしかして遥(はるか)ですか?」
実を言うと、彼女には想い人がおり、その人は俺の幼馴染である遥だと知っていた。
「凄いね、なんで分かったの?」
「先輩って分かり易いですもん。もしかすると、本人にもバレてるかも知れませんよ?」
そう揶揄うと、彼女は怒りつつ、恥ずかしそうに顔を赤らめた。
先輩がこの顔を魅せるのは、後にも先にもきっと遥だけだ。と言うのも、彼に「好きな人は先輩だ」と教わった事がある。その内遥は彼女に想いを告げ、付き合い始めるだろう。
彼女と駄弁っている内に、桜並木の終着点は刻一刻と近付いてくる。俺の家は先輩の家と逆方向のため、先輩の隣を歩けるのはここまでだ。
俺が挨拶をしようと口を開けば、彼女はそれを遮るようにしてこう言った。
「ねぇ拓真(たくま)くん。明日も一緒に帰ってくれる?いつもみたいに、私に話し掛けてくれる?」
木漏れ日が彼女と花弁を穏やかに照らす。そんな光のカーテンに照らされる彼女の姿は、純白のベールを身に纏っているかのようで。彼女のあまりの美しさに、俺は思わず息を呑んだ。
「……はい、勿論です」
苦しい思いを塞ぎ込み、彼女を悲しませたくないという一心で俺はそう答えた。
安堵した表情を浮かべ、嬉しそうに微笑む彼女。高校の入学式で一目惚れした先輩の笑顔は、今も変わらず桜並木のように美しかった。
──俺は、今なら自信を持ってこう言える。これで良かったんだと。
この時先輩と付き合う事になっていたら、何時でも眩しくて、どこか大人びたあの子との出会いは無かったのだから。
「あの、先輩」
俺の先を歩く彼女はゆっくりと振り返り、優しく微笑みながら首を傾げる。
返答を待つ彼女と俺の間をそよ風が通り過ぎ、残り少ない桜の花弁を散らす。役目を終えた花弁は、寂しそうに揺られながら、静かに地面へ吸い込まれていった。
「良ければ、俺と付き合ってくれませんか」
震える声を絞り出し、ようやく告げた想い。緊張で高鳴る鼓動は、彼女に聞こえてしまうのではないかと思うぐらい大きい。
突然の告白に驚いた顔をし頬を赤らめた彼女だったが、直ぐに困った様な顔に変わった。
嗚呼、これはきっとフラれるんだな。そう察した瞬間、彼女は口を開く。
「ごめん、気持ちだけ受け取っておくね。私好きな人がいるんだ」
こうも簡単に終わってしまった俺の初恋。
彼女は、申し訳無さそうに笑う。俺はそんな彼女に気付かれないように息を吐き、いつも通りを振る舞おうと無理矢理笑顔を貼り付けた。
「いえ、気にしないで下さい。玉砕覚悟でしたから」
普段通りを振る舞えているのか不安になりつつも、俺は彼女に話題を振る。
「先輩の好きな人って、もしかして遥(はるか)ですか?」
実を言うと、彼女には想い人がおり、その人は俺の幼馴染である遥だと知っていた。
「凄いね、なんで分かったの?」
「先輩って分かり易いですもん。もしかすると、本人にもバレてるかも知れませんよ?」
そう揶揄うと、彼女は怒りつつ、恥ずかしそうに顔を赤らめた。
先輩がこの顔を魅せるのは、後にも先にもきっと遥だけだ。と言うのも、彼に「好きな人は先輩だ」と教わった事がある。その内遥は彼女に想いを告げ、付き合い始めるだろう。
彼女と駄弁っている内に、桜並木の終着点は刻一刻と近付いてくる。俺の家は先輩の家と逆方向のため、先輩の隣を歩けるのはここまでだ。
俺が挨拶をしようと口を開けば、彼女はそれを遮るようにしてこう言った。
「ねぇ拓真(たくま)くん。明日も一緒に帰ってくれる?いつもみたいに、私に話し掛けてくれる?」
木漏れ日が彼女と花弁を穏やかに照らす。そんな光のカーテンに照らされる彼女の姿は、純白のベールを身に纏っているかのようで。彼女のあまりの美しさに、俺は思わず息を呑んだ。
「……はい、勿論です」
苦しい思いを塞ぎ込み、彼女を悲しませたくないという一心で俺はそう答えた。
安堵した表情を浮かべ、嬉しそうに微笑む彼女。高校の入学式で一目惚れした先輩の笑顔は、今も変わらず桜並木のように美しかった。
──俺は、今なら自信を持ってこう言える。これで良かったんだと。
この時先輩と付き合う事になっていたら、何時でも眩しくて、どこか大人びたあの子との出会いは無かったのだから。