シンデレラのドレスに祈りを、願いを。
悠季くんの強いまなざし、手に感じる強い力。
アスファルトからせり上がる蒸した空気に、悠季くんの背後の景色が蜃気楼のように揺れた。現実の世界から離脱してしまったように視界がぐらつく。


『早百合さん、入ろ?』
『ダメだよ』
『イヤなの? 僕のこと。僕とそういうことしたくないの?』
『イヤなんじゃない。むしろ……したい。欲しい、悠季くんのすべてが欲しい。でも、でもね……ちょ、悠季くんっ!』


悠季くんは強引にラブホテルの中へと引きずり込んだ。景色は暗転した。太陽が照りつけていた歩道から数個のダウンライトだけが灯る空間へ。

黒い壁に囲まれた暗室で中央には部屋の内装を掲示したパネルが煌々と光っていた。悠季くんはパネルの前でしばらく動かなかった。初めて見るいかがわしい部屋たちに呆然としていたに違いない。引き返すなら今だ。帰ろ?、と私は呟いた。

それが引き金になったのか、迷っていた悠季くんの手は目の前にあったボタンを押した。私の手をさらにぎゅっと握ってうつむいた。悠季くんの白い肌は赤く染まっていた。


『初めてだけど、僕、本気だから。早百合さんのことホントに好きだから。だから、いい? ダメって言われても引き返さない』
『……わかった。わかったから』


高校生のピュアでまっすぐな告白に心を打たれたのもある。もちろん悠季くんを欲しかった自分もいる。意を決して彼の手を握り返した。そしてパネルの裏側にある通路へ進み、ランプに誘導され、部屋に入った。
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