シンデレラのドレスに祈りを、願いを。

黙々と拾い上げていると、白く大きな手が伸びてきて箱をつかんだ。スーツを着た若い男性だった。


『大丈夫ですか?』
『はい』
『手伝います』


黒髪のストレートには天使の輪が輝いて、白い肌はつるつる。だからこそ左のこめかみにできたニキビがやけに赤く目立っていた。格好の割に若いのは見て取れた。

優雅な動作で箱を次々と拾い上げる。つい、見とれてしまう。


『ありがとうございました。助かりました』
『いえ。パーティーが始まるまで退屈してたし。パーティーの間も退屈だけど』
『そう。私にはこんな素敵なホテルで素敵な服を着てパーティーに参加できるひとがうらやましいけど』
『じゃあ、出てみる? 僕のパートナーとして』
『え?』


彼は手を差し出した。
にっこりと笑う彼に、私は冗談だと思った。
年下の男の子をからかうつもりで、私は彼の手に自分の手を重ねた。


『じゃあ決まり。ロビーに降りよ。ブティックが入っているから』
『え?』
『さあ』
『でも私、この焼き菓子を会場に』
『じゃあ一緒に運ぼう。ほら、急いで』


冗談でもなんでもなく、彼は本気だった。一緒に納品したあとは、私の手を引いてロビー階のショップへと連れて行った。

壁に掛かる色とりどりのドレス。ショーケースに陳列された宝飾品。
棚に並べられた靴たち。

値段はとんでもなく高い。私が普段着ている服の10倍以上だ。


『私、こんな服、買えない』
『僕が買うから。僕につきあってもらうんだから、それくらいさせて』
『でも』
『これなんかどう? 君に似合いそう』


あれよあれよという間に私は支度をさせられた。淡いラベンダー色のふんわりとしたドレス。白のパンプス。パールのネックレスとイヤリング。
隣にある美容室で簡単に髪をアップにしてもらう。

鏡に映った自分が別人のようだった。

こんな庶民の私を誘うなんてどうかしている。
私と彼は上階の会場にもどった。


『名前、聞いてなかったね。僕は佐藤悠季(さとうゆうき)。君は?』
『小野寺早百合(おのでらさゆり)です。佐藤さんって』
『悠季でいいよ』
『でも呼び捨てはイヤだから、悠季くん』
『じゃあ僕も。早百合さん?』
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