シンデレラのドレスに祈りを、願いを。
『さあ、行こ?』
『うん』


広い会場、高い天井。立食パーティーのようで壁側にはたくさんの料理が並んでいた。華やかなBGM、明るい笑い声、グラスを交わす甲高い音。

シンデレラに出てくる舞踏会みたいだ。


『早百合さん、踊ろ?』
『無理、踊ったことなんか』
『大丈夫。僕に任せて』
『でも……あっ、悠季くんっ』


強引に手を引かれてフロアの中央に連れて行かれる。悠季くんは私の左手を取り上げると私の腰に手を回した。ぐいと引き寄せられては上半身が密着する。目の前には悠季くんのネクタイの結び目。


『早百合さん、僕を見て』


耳元でささやかれて顔を上げる。


『そのまま僕に体を預けて。僕から離れないで。僕だけを見ていて』
『うん。あ……』


悠季くんはさらりと動き出した。右、左、前、後ろ、とステップを続ける。私は必死に悠季くんについていった。私が遅れそうになるとぎゅうと抱き寄せて私を離さない。

景色は遊園地のコーヒーカップと同じだ。目の前にいるひとは変わらないのに、その後ろの景色だけが走馬灯のように色を変える。


『早百合さん上手』
『悠季くんのリードがうまいから』
『ううん。そんなことない。こんなにすんなりと踊れたのは初めて。早百合さん、少し背を反らせて。そしたらもっときれいに見えるから』
『でも、怖い』
『僕がちゃんと支えてる。だから安心して』


私は悠季くんの手を軸に少し、背をそらせた。顔が悠季くんから離れたせいか、ぼやけていた悠季くんの顔が鮮明になった。白くなめらかな肌が輝いている。王子様っているんだ、そしてその王子様を独り占めしてるのは私なんだ、と宙に浮いた気分になった。


そんな幸せの時間も長くは続かない。パーティーはお開きの時間になった。ホテルのエントランスまで悠季くんは見送りに来てくれた。名残惜しい。それは魔法が解けていつもの自分にもどることよりも、目の前にいる悠季くんに二度と会えないことに切なさを覚えたから。


『悠季くん、ありがとう。とても楽しかった』
『僕も。早百合さん、また会える?』
『え?』
『早百合さん、いつなら時間あるの? パティスリー四つ葉って定休日は?』
『火曜日だけど』
『じゃあ火曜日の夕方、市立図書館で待ってる』
『でも』
『イヤ?』
『ううん』
『楽しみにしてる。早百合さん、とりあえず今日はありがとう』


大きな手を差し出されて握手をする。

きっとこの瞬間には私は恋に落ちていたんだと思う。彼の姿が見えなくなった
瞬間に胸がきゅうっと締め付けられ、泣きそうになった。

悠季くん。佐藤悠季くん……。
年下の男の子に恋をしてしまった。



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