シンデレラのドレスに祈りを、願いを。
……そんな生活を続けて6年。悠斗は9歳、小学4年生になった。
『母さん、ユーキくんって、ぼくのお父さん?』
突如出てきた名前に私は驚いた。3歳の記憶なんて消えているものと思っていたから。
『覚えてるの?』
『うん。なんとなく。海であそんだの覚えてる。あのひとがお父さんなの?』
『……そうよ。悠斗の悠に季節の季、で悠季。どうしたの突然』
『友だちにフリンの子だって言われた。母さん、ユーキくんとフリンなの?』
『不倫? 悠斗、そんな言葉、誰に聞いたの』
『同じクラスの友香。悠斗くんのママは美人だからゼッタイフリンだ、って』
『不倫ってどういう意味か、悠斗は知ってるの?』
『結婚してるひととエッチなことしてできた子どもだって、友香が言ってた』
私は絶句した。今の子供たちがませていることは知っていたけれど、不倫という言葉を使い、クラスメートにそんな推測を押しつけているなんて。
『悠斗、いい? 悠斗は不倫してできた子どもじゃない。母さんと悠季くんはほんとにお互いを好きで尊重して悠斗を授かったの。悠季くんは他の人と結婚してないし、悠季くんも悠斗のこと誰よりも思ってるから』
『じゃあどうして母さんとユーキくんは結婚しないの?』
『それは……』
私は言葉につまってしまった。身分差で始まった恋、経済観念の差が埋められなかったこと、仕事に対する熱のようなもの。それを今の悠斗に理解させる自信が私にはなかったから。