キス・イン・ザ・ダーク
ヴェスパー
とある都会の片隅。


オフィスビルが立ち並ぶ中に、ぽつんとたたずむ小さなビル。


その地下に、知る人ぞ知るバーがあった。


その名は、『ウルド』。


俺――石垣トオルは、そこの常連だ。


地下への階段を降り、重厚な扉を開けると、そこはもう大人の世界。


ほの暗い空間には、うまい酒とタバコの香り。


くたびれた日常からの開放が、ここにはある。


「いらっしゃいませ」


口ひげが似合うダンディなマスターが、落ち着いた声で迎えてくれる。


迷うことなくカウンターのいつもの席へ。


コースターと灰皿が静かに置かれた。













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