キス・イン・ザ・ダーク
「見合いをしていたら、無性に会いたくなったんだ。君に」


夜の、しかも行きつけのバーでしか会わない、苗字も知らない女なのに。


振袖姿の上司の娘とうわべだけの会話をしながら。


脳裏には砂夜の、嫣然と微笑む顔。


「びっくりした。まさかそんな場面で君のことを思い出すなんて」


砂夜は俺から視線をはずして、唇を撫でるばかり。


彼女の考えていることなんて最初から分からなかったから、反応は期待していない。


ただ、彼女との関係を少し変えてみたくなったから。


「ファム・ファタール。……彼女に」




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