キス・イン・ザ・ダーク
「ありがとう」


後ろのテーブル席には聞こえないように、彼女に言った。


「君のおかげで、面倒を避けられた」


テーブル席の女性たちは、彼女が俺の連れだと勘違いしているようで、じっとこちらをうかがっているのがひしひしと伝わる。


俺の後ろにちらり、と視線をやった彼女は、それだけで事情を察してくれたらしい。


少し俺の方に近寄ってきた。


まるで恋人のような距離で話す俺たちに、後ろの女性たちはうまく勘違いしてくれたようだ。


絡みつく視線と秋波が薄れていくのを感じる。


ほっと胸をなでおろした。





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