バッドテイストーヴァンパイアの誤算ー
雪が降ってきた、今年は何年ぶりかの大雪で彼女とこの家で再会した日のようだ
彼女がいない間に外出し、また玄関に入る頃には、すぐには溶けずよく積もる塊の雪がぼとぼとと降ってきていた
(本格的にひどくなる前に帰ってくればいいが、迎えに行くか…?)
でも、ついてくるなと言われたので大人しくすることにした
ふと、彼女が朝から洗濯機を回していたことを思い出す
慌てて出ていったため、干し忘れたのだろう
毎度のことだがそそっかしい、そこがほっとけなくて可愛いが
俺は完全に彼女に参っている、きっと俺の中にいるヤツもそうだっただろう
人間の血を飲むと俺たちは映画を見るようにその人間の思い出や感情を覗けることがある
そしてそれに感化されるヴァンパイアもいる
自分がそうなるなんて思わなかった、最初はこの状態に非常に混乱し戸惑った
複雑な感情は処理能力が低い未熟さゆえだと考えていたものは、感受性が強く思考が多岐に渡るからだと思い知る
いつしか俺自身も彼女に惹かれるようになって愛しく思うになっていた
ずっと彼女の側にいたい、彼女をまるごと手に入れたい
(本当にヴァンパイアにしてしまおうか)
そうすれば、人間の脆さを恐れることもなくなる、子供だってできる
(兄弟が欲しいっていっていた)
前に弟の方が、友人に兄弟が産まれたのをとても羨ましがって彼女を困らせていた
(男はもう二人いる、彼女に似た子供が一人くらいいてもいい)
こんな風に思うようになるとは考えもしなかった、他人に興味が持てず、ずっと一人で生きていくものだとばかり思っていたから誰かとの間に子供が欲しいなんて願うようになるなんて
でもきっと、彼女はヴァンパイアになることなんてこれっぽっちも望んでいない
例え俺を側に置いていても、人間の一生は短いからあっという間に俺を置いて逝ってしまうだろう
それを考えると苦しくてたまらない、いっそのことヴァンパイアにしてしまいたい
(でも、そうすると彼女の人としての人生を奪ってしまう)
キラキラと輝く今の彼女は子供を育てることが生き甲斐のようだ
将来年老いて、子供達に見守られて死ぬことが彼女の幸せだろう
ヴァンパイアにしてしまえばそれが叶わないどころか、自分が愛するものたちと共に生きていけない
そればかりか本来訪れることはない子供達を見送る立場になってしまう
一度最愛のものを失った彼女に二度とそんな経験はさせたくない、何も与えられない俺はせめて彼女の願いを見守りたい
彼女の人間としての人生を踏みにじることは例え自分でも許せない
俺の中のヤツはひどく彼女に執着して狂気を持っている
(だけど、それは結局ヤツの血に当てられた俺自身の感情のはずだ)
つまり、結局は俺自身の一部なんだ
彼女の側にいるために俺はこの気持ちを飼い慣らすことにした
オレはヤツの狂気に当てられてヴァンパイアの本能と結び付いたものだ
定期的に彼女の血を吸って彼女と身体を重ねれば比較的大人しくコントロールもできる
彼女と離れてしまえばどう暴走するかわからない、だからできるだけ彼女の側にいることが彼女を守ることになる