バッドテイストーヴァンパイアの誤算ー




ゴォーッとドライヤーをあてながら彼が手櫛で私の髪を乾かす

「靴下もはいたほうがいい、身体を冷やすな」

(お母さんかっ!)

「体調は普段と変わらないか?」

いつもこれでもかと私に甘い彼が、なんだか今日はいつも以上に私の身体を気遣っている

「うーん、そう言われればここ二、三日はちょっと熱くてダルいような、腰もちょっと痛いというか、重いっていうか」

でも、とても些細なことでちょっと疲れがたまるとよく出る症状だし、言われるまで気づかないレベルで放っておけば自然と治っていくはずだ

「大したことありませんよ~、過保護だな~」

「そうか、そんなに辛くないならいい、でも無理はするな、後が辛くなる」

(呆れるほど甘い)

「甘やかしちゃダメですよ、本当に可愛いなら厳しくしてあげないと本人の為になりません~」

彼は優しく正論だと言うけど、丁寧にドライヤーをかけ続けることからも自分の態度を改める気は全くないようだ

「過保護っていうか、そんなに壊れ物みたいに扱わなくても大丈夫ですよ、子供二人も産んでるんです、女の人って意外と丈夫なんですよ」

「俺からすれば人間は脆すぎる」

「まぁ、ヴァンパイアからすればそうでしょうけど、でももう介護されてる気分になるときあります」

「そうか、でも将来そうなるだろう」

「!」

(本当に一生私の側にいる気?)

「シワシワのおばあちゃんですよ?それでもいいんですか?」

「それも可愛いだろうな、ちゃんと最期まで看取る」

「えぇ~、おもっ!」

(まるでプロポーズみたい)

とても嬉しいのに素直になれない

ドライヤーをかけ終わってじろりとこちらを見てくる、重いって言ったのが気に食わないのだろうか

「さらさらだな…」

「ふふっ、奮発してトリートメントしましたからね、指通りがよくなるって美容師さんが…!」

彼と視線が合ってしまったと思った

美しい瞳の奥にギラギラした欲望が見え始める、彼のスイッチの入りどころが全くわからない

「のみますか?」

しなやかな肉食の獣のようにゆっくりと私に覆い被さってくる、私は後ずさりしてソファーの端まで追い詰められる

(そういえば今月はまだ吸血されてなかった)

頭を包むように大きな少し湿った手で私に触れる

「愛しい…」

こんな風に言われるとまた一瞬にして顔がかっと熱くなる

いつものように彼が激しく口付けをして私はその唾液をなんのためらいもなく飲み込む

顔を離した彼は少し辛そうだ

「?」

今日の彼はいつもと様子が違う、今日の私は少しおかしいけど彼もそうみたいだ

いつもならそのまま私の首筋の匂いを嗅いだりするのに身体を離して私から離れようとする

(やだ…)

彼がほしくてたまらない、今度は私が彼を追いかけようと状態を起こした、その時ー
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