バッドテイストーヴァンパイアの誤算ー




(とにかく腰が重い)

腰の痛みに目を開けるといつもは背後にいる彼が、ベットに腰かけて頭を拭きながら私を見つめている

(ずるいな、お風呂私も入りたい)

私の顔にかかった髪をどけて頬を撫でる

よく見るとヨレヨレのTシャツにゴムの伸びきったジャージをはいている

(よりによってなんでこれ、よく見つけたな)

これは亡くなったあの人が愛用していて新しいものを用意しても結局こればかり着ていた

(なつかしい、全然似てないのにおんなじことしてる)

「ず、るいです」

声がかれていて上手く出ない

「私もおふろ入りたい」

「体調は?」

「最低です、全身が重い、痛い」

特に下半身がひどいけど、これはこんな時に彼を受け入れてしまった自分のせいだ

「ごめん」

そんな捨てられた子犬みたいにしないでほしい

「ハイになるのはいいんですが、もう少し手加減してください」

「努力しているんだが…ごめん」

すごく深刻に謝ってくる

「体力なくてついてけない私も悪いし、あんまり深刻にならないでください」

いつも悪いとは思ってるけど、彼があまりにも丁寧に私を刺激して、そして体力の差がありすぎて気を失ってしまう

私の血にも身体にもたくさん我慢させていることは分かってる

特に身体にはきっと満足できず一人取り残されたみたいに寂しい思いでいるんじゃないかと思うと本当に申し訳ない

その後彼は私を毛布でくるむといつものようにお姫様だっこで私をお風呂まで運ぶ

運ばれながら一階のリビングからベットまで大掃除しなくちゃと思っていたのに、私がいたベット以外はハウスキーパーが入ったみたいにピカピカになっていて驚いた

しかも彼が珍しく私が自分で身体を洗うことを許したかと思うと、その間にベットルームまで完璧なベットメイキングどころかピカピカにして洗濯機を回していた

このヴァンパイアは本当に何でもできて女子力というか家事力が高い

なぜなら学習能力が高いからだ
おそらく彼が今現在行っている家事は元々彼が持っていたスキルではなく私と出会ってから習得していったものたちだ

例えばこの大量のハンバーグ、次から次へとじゅうじゅういい音を立てながら焼かれていてめっちゃいい匂いが私の空腹を刺激している

でも、私のお皿に置かれた一番始めに焼かれたハンバーグは両面黒い

私のために作ってくれたのが嬉しい、両面の中心が焦げでるだけでこれくらいなら問題ないのでお箸で割って一口頬張る

(レアレアだぁ~)

肉汁を通り越して血がしたたっていて、外は焦げているのに中はレアを通り越して生だ

割りとお腹が丈夫で大人な私はまだ我慢して食べれる、だけどさすがに子供にこれは危険だと思う

この量、そしてたまに現れるくまさんや星型、芸が細かいことからいっても子供達の分を焼いてくれているのだろう

(本当にたまにかわいいことする、もう感性が可愛いんだろうな)

見た目よりも味、質より量と無骨で色気というか女子力のない私とは大違いだ

亡くなったあの人も私よりも家庭的な感性をもっていたことを思い出す

作っていただいているものだし、なれない料理をすごく頑張っているのでやる気を削いだり彼を傷つけないように丁寧にお願いしてみる

「えーと、おいしいです、でも、ちびっこにはちょっとレアかな?もう少し火が通ってる方が好みかな~、なんて…」

(でも、ヴァンパイアとかいつも生食だよね、火加減とか考えたことないだろうな)

すぐに中までしっかり火が通ったほどよい焦げ付きの見た目もよいハンバーグがお皿にのせられる

「おいしい~!」

さっきのレアレアはあれで素材の肉感と言うか血の風味が何故か美味しいと感じたけど、ほどよい焦げ目と中までちゃんと火が通っているものは味付けがしっかりと感じられてハンバーグ的に美味しい

「見た目もかわいいし、子供達もすっごく喜ぶと思います、ありがとうございます~」

彼は目だけでチラッとこっちをみてまたハンバーグを黙々と焼く
でも、目元は穏やかで広角は上がっていてとても優しい顔をしている

私が初めのハンバーグを食べているときに既に次のものは焼かれ始めていた、最適な火加減を指示しなくとも、ぱっと改善してくるところに有能さが見える

こうやって洗濯や掃除も日々レベルアップして今に至る

私が干したものは取り込むときに袖が丸まっていて乾いてないときがある
最初の方は彼もそうだったので気づかなかったんだと思う、でも今じゃ彼が干す洗濯物は基本的にシワがない

私は部屋をどちらかというとまあるく掃除する、でも、彼がしてくれたあとは角という角もホコリが落ちていない

なんでもあっという間に完璧にこなしていて本来おおざっぱでいい加減な性格でまぁいっかが口癖の私は完敗だ

こんなに何でもできて何でもしてくれてる彼に私は一体何をしてあげられるだろうか…?
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