バッドテイストーヴァンパイアの誤算ー
彼は私の頬をすりすりと指の背でなでる、その顔は嬉しいような悲しいような複雑な表情で苦しそうだ

私は彼がなんでそんな表情をしているか全くわからない、でも、今はいっぱいいっぱいでその理由を考えることもできないままそっと彼の顔に触れる

「なんで、そんなかおするんですか…?」

彼の顔を触る私の手に彼の大きくて少し冷たくて湿った手が添えられる

「さぁ、なんでだろう…?」

さらに困った顔、見方によっては泣きそうな顔をしている

「きっと複雑なんだと思う、まだお前の中の一番がアイツできっとそれは一生変わらないかも知れないことが」

「…っ、」

一番とかはよく分からないけど、彼が言うようにあの人が私の中から消えるなんてことはこの先あり得ない

(でも、今の私の一番って何だろう…?)

「すみません、彼が消えることはないです」

「それでいい、それに多分、それが嬉しいとも思ってる」

「…どういう意味ですか?」

「俺の中のヤツが喜んでる、お前が囚われ続けていることを」

「やつ…?」

「俺の中に死んだお前の夫の血が流れてる、俺はヤツを吸血した」

「!」

彼があの人をどう殺めたかはわざと聞かないようにしていた、この事に変に触れたくなかったし今さら聞いたって事実は変わらない

「ヴァンパイアは吸血した人間の記憶や感情を映画のように読み取れることがある」

ここで急に頭が高速で動き出す、と言うよりも全ての点が繋がって線になったような感覚だ

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