バッドテイストーヴァンパイアの誤算ー
触れるとしっとりとして柔らかな唇は、首筋と同じように吸い付いてくるように感じられる

一度触れてしまうと歯止めがきかない、もう唇を離したくない、そしてもっと味わいたくなる

離れがたく感じながらも一瞬離し、次は角度を変えてさっきよりも触れる面積を大きくして吸い付く

そのまま何度も吸い付くと、彼女の唇が俺から逃げようと左右に振られる

そんなことはお構いなしに、彼女の唇を追いかけまた何度も吸い付く

(逃がさない…)

唇をふれ合わせるだけのことがこんなに気持ちいいとは知らなかった

やがて女が俺の肩をドンドンっと強く叩き、唇が離れる

ごほごほっ

「ふっ、ハァッ、ハァッ、…」

むせている女を見て初めて呼吸ができていなかったことに気付く

人間は脆い、本能のままに触れれば簡単に壊れることを再確認する

しかし、涙目で息を荒くし、どちらのものとも分からない唾液で唇を濡らし、その端から垂れる液体に目を奪われる

俺は本能に突き動かされ零れる液体を舌で舐めとりながらそのまま彼女の口に侵入する

さっきまでの冷静な分析は頭のすみに追いやられ、もっともっとと口のなかを犯す

最初は戸惑っていた彼女の舌も、もはや観念したのか俺の舌に応える

女の匂いがまた一段と強くなる

それが余計に俺を刺激して、もっともっとと先走る思いからどんどん激しさを増す

その時だ、彼女の唇に俺の牙が当たってしまう

女は痛みで咄嗟に口を離すと、唇から血が流れる

俺はごく自然にそれを舐めとる

苦い記憶から一瞬、しまったと思ったがそれは杞憂だった

(…甘い)

口から鼻に広がる爽やかで甘い強い匂い

舌の上で香ばしくでもソフトな旨味がおどる

(もっと思いっきり吸血したい)

さっきまでとはまた違った本能が囁きだす

唇から首筋、肩へと舌を這わせ、また首筋と肩のちょうど間にもどる

「んんっ」

女は声を押し殺そうとしているが、腰から全身がビクビクっと動く

また匂いが強くなる

俺の唾液の毒が口から全身に周りはじめたのだろう
そこにさらに首筋に毒を重ね刺激を与えているのだから相当なはずだ

その反応と匂いで、俺は勢いよくその場に牙を突き立てるー
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