バッドテイストーヴァンパイアの誤算ー
町を歩くだけで、硫黄のニオイに包まれる
どこもかしこも硫黄だらけで鼻がマヒしてくる
でも、わざとここを選んだ
あの晩があってから一年、彼女の存在を感じずに生活してきた
だけど、雪を見ると思い出してしまいそうな気がして、わざわざ女のところからは遠い、幻臭さえ起こさないであろうここへ来た
今日宿泊する旅館へ入る、受付に早めに到着した旨を伝える
さっと一人の女が俺の前を横切る、
彼女の匂いがした気がした、
反射的にその匂いを求めてきびすを返す、
どんっ、
足元に小さな衝撃と濡れた感覚、
幼い子供が紙パックを持って泣き出しそうだ
あまりに幼く感情が高ぶっている子供、これ以上刺激しないように頭を撫でながら、少しソフトなトーンで声をかける
「大丈夫だ…怪我はないか?」
あわてて、先を歩いていた母親がこちらへ駆けてくる
ふいに彼女のニオイが強くなる
母親は慌てて謝りながら、俺の足元を持っていたタオルで拭こうとする
(これだ!)
その手をガシッとつかむ、母親はビックリしてこっちを見ている
「問題ない…、だけど、これもらってもいいか?」
母親はもちろん、といってさらにもう一枚タオルを出そうとするがそれに興味はないので断る
そうしていると、後ろから早めのチェックインが可能になったと声をかけられる
俺はヴァンパイアだから人間の食事はとる必要がないし、無駄に人間に部屋を出入りされるのも面倒なので先に布団だけひいておくよう伝えてあった
俺は部屋の鍵を受け取り、案内を断ってまっすぐ自分の部屋へ急ぐ
(早く思いきり彼女のニオイを嗅ぎたい…)