バッドテイストーヴァンパイアの誤算ー
(デジャブだ…)

彼は鼻唄を歌いそうな勢いで上機嫌、モコモコと泡を立てている

(おちつけ、落ち着けじぶん!!)

二年前の二の舞にならないように全力で頭をフル回転させる

今日起きたときは、洋服を着ていたし今回は何にもなかったはずだ

(さっきから彼と私の間にあるズレはなんだろう…?)

彼は泡を泡立て終わると私の腕をとり洗い始める
まるでとても大切なものを扱うようにそっと優しく私の肌をすべる彼の手

私は彼とはまだ二度しか会ってないのに彼は私のことをよく知っているみたいで、まるで彼にとって私はとても大切な人のような扱いだ

(あぁ、ここか…)

「あの、自分で洗えます」

「あと、今さらって思われるかも知れませんが…」

何て言おう、あんまり覚えてないけど、少なくとも二年前はやることはやっちゃったみたいだし、この彼との心の距離感の違いをどう説明するべきか…

「私、夫がいます」

「…知ってる、でも三年前に死んだ」

(知ってるんだ…)

「本当に申し訳ないですけど、一応まだ彼に操をたてているんです」

(全然説得力ない)

「だから、二年前もきのうも酔った勢いというか、あんまり覚えてなくて、一夜じゃないけど一夜の過ちなんです…」

あぁ、最悪だ、自分でいっていて何て情けない、最低の妻だし女だ
自分で言っていてどんどん心が鉛みたく重くなっていって最後は声が震えていた、私に泣く権利はないけど勝手に目が潤む

「お前のせいじゃない」

「…!?」

彼はゆっくりと私を彼の方に向かせて、優しく抱きかかえるように腰に手を回す

「俺が勝手に血を吸っただけだ、お前は酔っていて誰か、きっとお前の夫と俺を間違えていた、そして俺の唾液に反応しただけだ」

耐えきれない涙が一気にあふれだす

彼はとても優しい声と顔で困った表情をしながら私の涙を拭う

(何でこんなに優しいんだろう…?)

この二年間、命日のあの日、彼とあったことを誰にも言えずにいた
何度も後悔して自分を責めて鉛のように重い記憶と気持ちを抱えていたけど、無理にその気持ちを閉じ込めてきた

だけど、やっと誰かに聞いてもらえた、
それだけじゃなくてこんなに優しいことばをかけてもらえるなんて思いもしなかった

彼がそっと私に近づいてキスをしようとする

それを全力で両手で彼の口を塞いで止める

「だから操をたててるんです!」

「その必要はない、俺は…」

優しい彼の表情で語りかけていると思えば言葉の途中で一転して急に表情が強ばった、かと思うと下を向いてしまう、そして動かない、

「帰る…」

去り際の顔は真っ青だ、瞳は悲痛な叫びをあげているかのように揺らいでいる

(キスを拒んだくらいでなんでそんなに苦しそうな顔をするの?)

また彼を傷つけてしまったようだ

何よりもあまりにひどい顔をしている彼が心配だ…





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