バッドテイストーヴァンパイアの誤算ー
去り際にリビングにある家族写真が目に入って心臓を掴まれたような感覚になる
(この男は…)
ずっとそこに置かれていた写真を俺は何度も目にしている、だけど何故か今の今までそれを気に留めることはなかった
それに、確かに初めてこの家に来たときから違和感があった
この家にはいたる所に俺たちヴァンパイアを寄せ付けない結界が張ってあった
とても狡猾な張り方でこれを作ったやつは絶対に蛇のようにねちっこく、だけど相手の動きを読んだ計算高く賢いやつだ
その割には俺を静電気ほどの衝撃で簡単に通していて意外と抜けているなと思ったぐらいだが、それは間違いだった
そう、俺だから通れたんだ
俺にはこの結界を張ったやつの血が流れている
(俺が殺したハンターだ…)
あの時俺は女に何て言おうとしたか、
(俺は…オレだよ)
背筋がぞくりとする、俺の中に俺以外のやつ、オレ、ハンターがいる
(一体いつから?)
(人間のような感情も?)
(彼女に惹かれるのも?)
思えば、いくつもおかしなことはあった
ただの餌の女を、彼女をとても大切に思っていた
人間じゃないと持ち得ないような感情も、
女を目の前にするとたちまち暴走する俺の本能と思考、感情、行動、すべてがぐちゃぐちゃでおかしかった
(あいつは最後に笑っていた、こうなることを分かっていたから…?)
足元がぐらつく、今にも崩れそうな足場の上に立っているようだ
はっはっと呼吸が浅くなる
冷たい指先で口元に手を当てる、反対の手で首を押さえて気付く
(首輪を置いてきてしまった…)
首が寂しい、だけど俺はもう女の側にいられないならせめて俺の匂いがついた首輪がそばにあることが救いのような気がした
(あの牙のように首輪が側にあればいい…)
心を落ち着かせようと両手で首を押さえて空を仰ぎ見る、そして歯をくいしばって強く目を閉じるー