バッドテイストーヴァンパイアの誤算ー
少し冷たくて大きな指先が優しく私の頬に触れて涙をぬぐう
(そういえば、何度もこんなことがあったような)
あの男が来たんだ、またいつの間にか私の前にいるんだ
目を開けてぼーっとその男を見る、男はじっとこちらを伺うように見ている
「どこから入ったんですか?」
「玄関から」
(そりゃそうだよね、でもいつも気付いたら側にいるし…)
男がぎしっとベッドをしならせて私の上に覆い被さってくる、寝起きで働かない頭と身体で私は男を見上げる
(相変わらずのゼロ距離だなぁ)
男の大きな手がいつものごとく私の頭を固定したかと思うと、キスしてくる
たちまち口のなかを侵されて彼の唾液でいっぱいになる、でもこれを飲み込めば離してくれるのを分かってるし、そもそも私の抵抗なんて彼の前ではなんの意味も成さないから素直に飲み干す
そっと唇が離れる、身体が熱くて息が上がる
「まいかいっ、毎回何なんですか!」
そんな私を見ると男は唇をきつく結んだかと思えば、私の胸元の洋服を鋭い爪で引き裂く
「!」
大きな手を肌と洋服の間に滑り込ませる
ゾクッとして動けなくなる、私に触れる手はとても優しいのにそれに反して男の行動は突拍子もなく激しくて怖い
胸に舌を這わせたかと思うと、鋭い甘美な感覚が走る
「んっ…!!」
男が私に噛みついて血を吸っている、両手は彼に固定されてしまっていて私はどうすることもできない
これは現実だと一気に目が覚める、男自身と自分の体液がすすられていくことに本能的に恐怖を感じる
「やだ…」
指先が冷たくなってか細い声しかでない
彼はゆっくりと顔を上げてとても苦しそうにこちらを見ている
(また不味かった…?)
その顔を見ると恐怖よりも彼の去り際の表情を思い出して胸がぎゅっとなってしまう
「俺はヴァンパイアだ」
(本当だね、)
「お前の夫を殺したのは俺だ」
(…!?)
「…なんで…?」
「事故だって…」
彼の会社の人や警察からは車の交通事故に巻き込まれたと聞いている
遺体の損傷が激しくて首には大きな傷があったけどちらっとしか見せてもらえなかったし、火葬するまでほとんど合わせてもらえなかった
だから彼が死んだとなかなか実感がわかなくて一年かけてようやく彼がないことを実感するようになった
「…それは真実ではない、あいつはお前に隠していようだが、吸血鬼専門のハンターだった」
男は凄く真剣に話していて、嘘だとは思えない表情をしている
それに本当はずっと彼の会社や行動、それに首の傷に違和感があったから、何だか納得してしまっている自分がいる
「それが本当だとして、なんで私に話すの…?」
「話すと約束した、そして、あいつの最後の願いがずっとお前の側にいることだから」
私も泣き出しそうだけど、目の前にいる男も泣き出しそうな表情をしている