バッドテイストーヴァンパイアの誤算ー
生暖かく柔らかい春の風が吹くー

初めて女と出会った時もこのように生暖かい風が吹いていたがあの時はまだ冬の風だった

初めて会ったときは匂いに惹かれていた、しかしその味は想像を絶するほど不味かった

すぐにでも口を離したかったが、身体は言うことをきかないどころか喜んで彼女の血を吸っていた

味覚に反して俺の身体を流れる血は彼女の血に喜びの声を上げていた、その証拠のように三人吸血しても修復しなかった傷が綺麗に治っていた

初めて会った時、オレを映さない瞳に悲しみが込み上げていたと同時に俺は怒りを覚えていたと思う

拒否されたからオレは動けなくなっただけじゃない、生きることを選んだ強い瞳に俺は動けなくなった

あの大雪の日にあの家に行ったのは偶然ではなかった、オレは彼女がいることを知っていてあそこに行ったんだ
あの血の味はそれまで吸血した中でも最高だったし、
初めて女と繋がった時オレは彼女がオレを拒否しないことに狂喜していた

女に強く惹かれ過ぎていっそのこと壊してしまおうかとさえ考えた

でも、あの時女を傷付けないために牙を抜いたのはオレ?それとも俺?

気を失った女を愛しく思った、そして女が目覚めたとき俺を拒絶するその態度に心をえぐられた

女の優しくも悲痛な心を守らなければと思った

何としても側にいなければと思って、獣としてでも側にいたいと思った

ロキとして穏やかな時間を過ごすうちに女が俺を見て俺に話しかけてくるのが俺の中で穏やかな安らぎになっていた

そして、またいつ俺のヴァンパイアとしての狂気やオレの雄としての狂喜が、女を壊してしまうかと怖くて怖くてしょうがなかった

それと同時に、ヴァンパイアの俺が拒絶されることを心配し畏れるようになっていた

だからあの時、ロキではない俺に話しかけてくるだけで安堵と歓喜の感情が込み上げていた

しかし、いつしか女の側にいたいがために彼女を縛る方法をずっと考えるようにもなった

今思い返せば初めの頃はあの男と俺の境界がはっきりしていたと思うが、今ではオレは俺に溶け込みつつあるのかどっちがどっちの感情かなんて境目は非常に曖昧なように思える

(あの男に感化されていない俺だけの感情はあるのだろうか…?)



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