《短編》ガラクタ。

「アンタ、もしかして本職？」


「まさか。
俺は普通に一般市民だって。」


背中の刺青からしてもヤクザなのかと思い、問うてみたあたしの口に咥えていた煙草を簡単に抜き取った彼は、そう言って勝手に人の煙を漂わせた。


漂わせて、そしてゴホゴホと咳き込むのだから、失礼極まりない。



「不味い、って言いたい？」


「いや、ただの風邪。」


アラタでも風邪なんて引く辺り、普通の人間だったのかと、どこか他人事のようにそんなことを考えている自分が居た。


取られた煙草に幾分不貞腐れてみれば、彼は一口しか吸ってないあたしのそれを、すぐに灰皿へと押し当ててしまうのだから。



「そういやお前のマイっての、本名？」


「何で？」


「いや、別に俺は何でも良いんだけど、何か似合わないっつーかさぁ。」


「よく言われるよ、それ。」


「じゃあ、本名だったんだ？」


「まぁね。
てか、違うって言ったら、どんなの想像してた？」


「我が儘子、とか？」


「ふざけんなよ、馬鹿。
アンタ、そんな名前の人と出会ったことあんの？」


「いや、ねぇな。」


「当たり前じゃん。
それに、子供にそんな名前つける親も居ないよ。」


「ははっ、だろうな。」


本気でわけがわかんなくなってきて、ため息を混じらせながらあたしは、こめかみを押さえた。


ギャグなのか、それとも本気で言ってるのかさえわかんない顔してんだから、やっぱり頭がおかしい男なのは間違いない。