《短編》ガラクタ。
アラタ曰く、二階は空間設計の事務所で、よくわかんないけどお店のトータルコーディネートなどをするのだと言っていた。


そこに頼まれて、お店に置くための絵を描いたり、まぁ、そんなこともしているのだとか。


個展が正式に決まったのは今朝のことで、3月までは準備のために少し忙しくなるんだとも言っていた。


アラタはあたしにとって、何にもしてないイメージが強かっただけに、新鮮で驚きばかりだったわけだけど。


寒々しいアトリエの中でそんなことを語り合い、出る頃には世界が朝もやの色に染まっていて、それにもまた、驚いてしまった。








「寝る時間、ある?」


「ないかも。
けど、こんな話聞いたら興奮して寝らんないし。」


「じゃあ、俺もばあちゃんに怒られるかな?」


「怒られるだろうね。
嫁入り前の若い娘をたぶらかして、って。」


「ははっ、嫁入り前って。」


「マジだよ。
女は結婚するまで処女とか、今時ないよ。」


「お前のばあちゃん、すげぇな。」


ご機嫌なアラタとそんな会話を繰り返しているうちにあたしの家まで到着し、キスを交わしてまだ少し薄暗い世界へと車から降りた。


すぐにそれは走り去り、やっと携帯を取り出してみれば、そこにはシゲちゃんからの着信が残されていた。


最後に会ってからもう2週間以上は経過していると思うけど、そんなことすらすっかり忘れていたのだ。


つくづくあたしも、ひとつのことばかり考えてたら他の全てを忘れてしまう、困った性格なのだろうと思った。


思ったのだが、思わず寒さに身震いして、そのまま足早に家の中へときびすを返した。


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